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「永遠の音楽家」(白水社) メモ

 
 私が持っているのは、第Ⅰ期第8回配本の『バルトーク』と第Ⅱ期第1回配本
の『シェーンベルク』のみですが、全16巻を揃えようなどとは当時思ってもいま
せんでした。興味のある作曲家だけ手に入れればいい、と考え、それでも『スト
ラヴィンスキー』は店頭在庫がなかったのか、まだ貧乏学生で断念したのか、そ
の辺りの記憶は定かではありませんが……。
 奥付に記入することにしている「読了日」から、『バルトーク』は15歳の時に、
『シェーンベルク』は19歳の時に読んでいることが判ります。ところどころに書
き込みなどもあり、「理解しようとじっくり」読んだ跡が窺えます。
 日本万国博で武満徹や高橋悠治の、当時は「前衛」と言われた作品の洗礼を受
けるより少し前から、『音楽芸術』誌(音楽之友社、1998年休刊)の付録楽譜で日
本人作品の楽譜などを眺めていたせいか、「今現在生きている人の作品」「古典
派やロマン派ではない、20世紀になってからの音楽」に食指が動き、無調や12音
技法などに興味を持っていたことを懐かしく思い出します。

 「永遠の音楽家」シリーズは、フランスの出版社「Editions du Seuil」の、
「ソルフェージュ叢書」を翻訳したものらしく、全16巻に総てあたったわけでは
ありませんが、訳者のあとがきからそれと覗えます。
 Editions du Seuil は現在も存在し、洗練されたホーム・ページを公開してい
ますが、文学、歴史、科学など扱うジャンルは広く、日本でいえば、講談社や新
潮社といった大手出版社が、「音楽書も手掛けた」というような存在ではなかっ
たかと思います。

 http://www.seuil.com/

 『バルトーク』の著者シトロン(Citron)を検索窓に入力すると、フル・ネーム
の「Pierre Citron」を返しては来るものの、著作物は表示されず、原出版社で
も絶版か、フランス語の壁で私の探し方が悪いのか……。
 白水社版「永遠の音楽家」シリーズは、1970年を挟んで前後数年かけて刊行さ
れたようですが、『バルトーク』の原著は1963年が白水社版1969年刊、『シェー
ンベルク』は原書1969年が白水社版1970年刊ということで、本国フランスで既刊
のものを追いかけ、徐々にフランスで刊行後すぐに翻訳に取りかかる態勢で臨み、
完結に至ったのでしょう。

   第Ⅰ期(8冊、各950円)       第Ⅱ期(8冊、各1,000円)
   1.モーツァルト          9.シェーンベルク
   2.ベートーヴェン         10.ヴィヴァルディ
   3.バッハ             11.マーラー
   4.ショパン            12.ブラームス
   5.ストラヴィンスキー       13.ラヴェル
   6.ワーグナー           14.ヴェルディ
   7.ドビュッシー          15.クープラン
   8.バルトーク           16.ハイドン

 訳者の仕事の速さや、本国の原著の刊行事情などにも左右され、順番通りの配
本ではなかった部分もあるかも知れませんが、ほぼ巻数順に出版されたようです。

 ブークスの「本をさがす」では、「永遠の音楽家」で検索すると、全16冊すべ
てがヒットします。どれも ISBN-13 が付せられていますし、値段はみな1,890円
と表示されます。消費税がなかった頃のものも、「現在買おうとすれば」の額で、
本体価格に現行消費税を加えて表示するのがネット・ショップの仕組みですから、
1,800円に価格改定されたのがいつかは判りません。その中で、『シェーンベル
ク』だけが2,520円となっており、シリーズ最後の重版か、と推測させます。

 書誌情報的に見た場合、第Ⅰ期が書籍コードのシステム以前の刊行で、第Ⅱ期
が函書き・奥付ともに書籍コードの記載があり、ちょうど書籍の流通・販売がシ
ステム化された移行期の出版物であること。
 バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンといった基本中の基本をおさえ、新し
い時代の方もバルトーク、シェーンベルク、ストラヴィンスキー辺りに収まって
いて、「おだやか」な範疇にとどまっている。これは、一般市民図書館や学校の
図書館などにも受け入れられやすいであろうということ。
 各巻独立していながら、出版企画は16巻セットのようなニュアンスを持ってい
るので、最終的には櫛の歯が抜けるように品切・絶版になっていくとしても、単
巻本よりは「全巻揃って在庫」を維持する意識が働いたであろうこと。(『シェ
ーンベルク』だけが2,520円になっても版を重ねたのが、そんな事情を想起させ
ますが深読みでしょうか。)
 等々の要素を含んでいるように思われます。
 もし、このシリーズ刊行がそこそこに生き存えて、1980年代に入るまで出版社
の在庫管理台帳に載っていたのであれば、
・セット物とはいえ、どの巻が版を多く重ねていたか。
・無コード時代、旧書籍コード時代、ISBN コード時代と、書籍の販売・流通に
 おける変化をどう生き残ったのか。
・原著との照合が可能なら、「ソルフェージュ叢書」を全巻翻訳したものか、邦
 訳に際して「売れそうな」ものを取捨選択して日本版にしたものか。
・本国フランスでも、ISBN の管理対象になっていたのか。
等々の、いろいろ興味深い「履歴」がトレースできそうです。

 アマゾンでは、例によって「B000J~」による ASIN による管理。「永遠の音
楽家」で検索すると、ヒットしたのは8種のみ。その内、最初刊であろうと思わ
れる『モーツァルト』は、出品者が提供したデータにより、
 「1989年4月10刷」
の記述が見られます。他には、『バルトーク』(1977年3刷、1973年というのも
ありますからこれが多分2刷でしょう)、『シェーンベルク』(1980年9月3刷)、
『マーラー』(1977年3刷定価1,800円)など。
 『ヴェルディ』『ハイドン』辺りは記述のあるものは「初版」しかないので、
あまり反応が良く(版を重ね)なかったのか、逆にアマゾンに出品されない作曲家
の巻は、人気というか「レアもの」なのか。
 いろいろ想像をたくましくさせられます。

 試しに、単に、グーグルの検索窓に「Pierre Citron Bartok」と入れると、該
当書がヒットして、「SEUIL」が読み取れる表紙画像が現れます。取扱はまたし
てもアマゾンですが、「amazon.fr」とあり、翻訳された画面から 9.45 EUR の
「ペーパーバック」版が「在庫あり。」と日本語表示されました。便利な世の中
になったものです。「Collection : Solfeges」とあり、「永遠の音楽家」の原
著がペーパーバックでまだ刊行中、在庫があることが判ります。
 画面をやや下がって、日本語で言えば「この商品を買った人はこんな商品も買
っています」のコーナーが「amazon.fr」でも表示され、表紙画像(装幀の雰囲気)
から、同じシリーズらしい本が並んでいます。それぞれをクリックすると、やは
り「Collection : Solfeges」とあり、日本では翻訳されなかった『シューマン』
(1995)、『ラフマニノフ』(1990)、『シューベルト』(1988)、『フォーレ』(1995)
『サティ』(1995)、『プロコフィエフ』(1995)などが見つかります。
 もちろん、年代から「永遠の音楽家」シリーズの1970年前後には翻訳のしよう
がないとも言えるのですが、よくよく見ると、
 『モーツァルト』(Ed. rev. et augm (1 janvier 1994))
 『ショパン』(Nouv. ed. rev. et augm (1 janvier 1986)
など、「rev.」の表記に、ペーパーバックになる以前の一群の作曲家評伝「ソル
フェージュ叢書」があり、現在は軽装版になって版を重ねている、ということで
しょうか。

 すなわち、白水社版の出版企画は、
・日本万国博に象徴される好景気の時代に、
・文庫クセジュを擁するフランス語圏書籍にやや明るいスタンスもあり、
・「Seuil」社の作曲家評伝シリーズがあるからひとつ翻訳を企画しよう。
・取りあえず第Ⅰ期は無難な「バッハ」「モーツァルト」「ベートーヴェン」か
 ら始めて、ちょっとは冒険で「ストラヴィンスキー」や「バルトーク」も。売
 れれば第Ⅱ期、第Ⅲ期……、と続ける。
・ベートーヴェン生誕200年の1970年を前に、1969年の第Ⅰ期はそこそこ成功。
・イムジチの来日でバロック・ブームが到来しているから、「ヴィヴァルディ」
 「クープラン」辺りも出そうか。
・さて、第Ⅲ期を企画できるか? 翻訳の先生方も偉くなっちゃって結構お忙し
 そうだしなあ。
・第Ⅱ期の『ヴェルディ』『ハイドン』辺りは、出しても反応があまりパッとし
 なかったし、どうしようか。
・んー、在庫管理・重版運営もあるしね、上製本・函入りというのも経費率が圧
 迫されるし、さりとてシリーズ物だから制作・製本を変えるわけにもいかない
 しねえ……。

とまあ、途中からは根拠のない勝手な憶測ですが、こんな経緯をたどり、ある時
点で、「以後は在庫が尽き次第品切絶版」の方針が下され、現在は「古書」のみ
の流通、ということになったのでしょうか。

 翻訳ものなので、原著フランス出版社「Seuil」との著作権契約などもあるで
しょうが、本国では今もペーパーバックで気軽に入手できることに、出版文化に
対する「息の長い」姿勢を羨ましく思います。
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